インターネットでDIYに関する調べごとをしても、なかなか静かさ・静音性に関して言及している情報は少ないものです。
これは逆に言えば、そうした環境がなければDIYが難しいことを意味しています。
私はDIYが好きで、特に昔から古い車を買っては修理を繰り返してきました。
買った価格の何倍ものお金をかけて、一通り直しきったらまた買い替えるという不毛なことを続けていた時期があります。これは知人のお店の一角を借りることが出来ていたために実現できていたことです。
車だけでなく機械や木工も好きでしたが、賃貸住宅・集合住宅に住んでいたため始められずにいました。
私は神経質・心配症な質で、集合住宅の騒音問題に関してもそうです。
普段から足音の立てない歩き方をしますし、食器洗いの食器がすれる音すら気になります。もちろん最近の集合住宅では、その程度の音が隣や階下に漏れることがないとはわかっているのですが、性分ですね。
そんな私がどうしても我慢できずにDIY、特に木工を始めたのが3年か4年くらい前の話です。当然音には極端な配慮をして、道具や作業工程も取捨選択しながら今まで続けてきています。
しかし、音によるDIYの制約は大変厳しく、今は防音室を自作してある程度音の制約からは解放されました。
もちろん賃貸住宅・集合住宅でのDIYを推奨しているわけではありません。
作業工程は無駄が増え手間がかかりますし、配慮が足りなければ周囲に迷惑がかかります。苦情が来ていなければセーフという考え方は危険です。
くれぐれも静かなDIYの参考情報としてお考え下さい。
DIYにおける騒音の基本
DIYで発生する2つの音
DIYで発生する騒音は2種類に大別することができます。
モーター音や機械音、切断音に代表される高音と振動・打撃音に代表される低音です。
前者は近年の遮音性が高い住宅では、あまり外に漏れだすことがありません。
築年数のそれなりに新しい建物で、特に低コスト重視で建てられた家でなければ、たとえ木造であっても隣や上下階の家の足音や生活音、掃除機の音なんかも完全に遮音されて聞こえないものです。
これは遮音性に優れた設計によるもので、特に甲高い音は効率よくシャットアウトされています。
しかし、こうした遮音性の高い家や鉄筋コンクリート造の家であっても遮ることができないのが低音です。
振動や打撃を始めとして低音を遮ることは難しく、現実的にはほぼ不可能と考えた方が良いです。特に階下への伝播は避けられません。
例えばそれほど多いケースではありませんが、隣室や上下階でエアコンの取り付け作業などが行われると、エアコンを取り付けるための金具を壁に固定します。
この時エアコンの取り付け業者さんはインパクトを使いますが、この打撃音は明確に伝わってきます。
私はDIYに特化した自作防音室を製作していますが、それでも低音の発生は極力避けています。
電動工具の騒音
DIYをする以上は、いずれ電動工具を手にするときがあるはずです。
その時、静かなDIYを意識される方であれば電動工具の騒音が気になるはずです。
電動工具は基本的にモーターで回転の力を利用して動くものが多く、モーターの種類や回転数が明記されるものです。騒音の程度は、回転数とモーターの種類により決まります。
回転数
先に回転数からお話ししておくと、回転数が速ければうるさく・遅ければ静かです。
シンプルです。
機種によりますが、インパクトであれば2000から3000回転、丸ノコなら5000から6000回転、ディスクグラインダーなら9000から10000回転以上となります。
モーターの種類
モーターの種類には、大きく分けてDCモーターとインダクションモーターがあります。
DCモーターはブラシがあるものとないものに更に細分化することができます。
よく聞く「ブラシレスモーター搭載」というのはブラシのないDCモーターということになります。
電動工具においては、DCモーターは手持ち可能な小型工具に採用されることが多く、一方でインダクションモーターは大型な据え置き型工具に採用されることが多いです。
騒音に関してはDCモーターでは、モーター音がはっきりとあります。
ブラシありでは「ギュイーン」というようながさついた音、ブラシ無しでは「シュイーン」というスムースな音がしますが、音量自体はあんまり変わりません。
一方でインダクションモーターはほぼ無音です。
インダクションモーターは圧倒的に静かで無音ですが、手持ち工具に採用されることはほぼありません。
インダクションモーターが採用される工具として一般的なのはボール盤やテーブルソー、バンドソー、卓上グラインダーなどです。
DCモーターはほとんどの手持ち電動工具に採用されています。
騒音 = モーターの種類 × 回転数
DCモーター搭載で3000回転台であれば、せいぜい掃除機程度の音量です。
ドリルやインパクトの空転音はこの程度ですね。
4000回転から5000回転あたりまでいくと、掃除機のなかでもやかましい部類のものと同じような音量になります。
更にそれを越えるとイヤーマフなり耳栓がほしくなるでしょう。
もちろんこれは空転時で、実際に作業する時の音とは異なるので注意が必要です。
デシベル表記に注意
よく音量の目安として「この工具は空転時で85デシベルだ」とか表記されることがあります。
私も参考値としてこのデシベル計を使ってA特性補正を加えたデシベルの値を記載することがあります。しかし、これは測定機器の良し悪しに関わらず完全に目安でしかないことを覚えておいてください。
色々な機器の音量を一定条件下で測定していますが、実際に人が感じる音量や特に隣家や上下階への音の伝播を意識した場合には現実とは乖離する測定値がでます。
また、ネット上で見つかる測定値は残念ながら測定環境が一定しておらず比較するにはアテになりません。
90デシベルや95デシベルを超えるような極端に大きな数値が出ればうるさいと判断できますし、逆もまた然りですがそれ以上の判断は困難です。
同様にYoutubeなどの動画で使用しているシーンを参考にするのも危険です。
なぜなら特に設定を施さない限りは録音音量が自動的に耳障り良く調整されてしまうからです。特にDIY動画では、うるさい工具の使用シーンでは音量レベルを落としているケースも非常に多いです。
穴あけ・ネジ止め
DIYの基本ともいえる穴あけやネジ止め。
つまりドリルやインパクト、ボール盤などの工具を使用した穴あけやネジ止めの騒音と対策について解説します。
まず始め、穴あけやネジ止めをするドリル・インパクト・ボール盤にはそれぞれ特徴があります。
ドリル
ドリルはシンプルな回転するだけの工具です。
空転時の音は静かなもので、実際に穴開けやネジ止めをしても音量は変わりません。
手持ちの穴あけ・ネジ止め工具としては間違いなくベストな選択です。
インパクト
インパクトはドリルの回転に加えて、打撃が加わります。
打撃と言えば周囲への音の伝播が避けられないものの代表です。
もし静かに賃貸でDIYをしたいのであればインパクトは絶対に避けなければなりません。
そもそもこの10.8Vクラスのドリルですら、下穴無しで木にネジがどんどん埋まっていくくらいのパワーがあります。
DIYにおいて、インパクトが必要なケースというのは一度も出会ったことがありません。
参考:【静かなDIYの第一歩】インパクトドライバーは買ってはいけない!
ボール盤
ボール盤は、どんな安物であってもインダクションモーターが採用されていて静かです。
ドリルやインパクトと違って据え置きで、正確に垂直の穴があけられるというのが一番の特徴です。
静かなDIYを意識するのであれば、手持ちはドリル、正確な穴あけが必要な時はボール盤を選択しましょう。
穴あけ音やネジ止め音
穴あけやネジ止めする際の作業音は、無理をしない限りはしません。
安いホールソーで大きな穴をあけようとすれば、刃と木の摩擦音が出ますし、下穴無しでネジ止めしようとすればやはり摩擦音がでることがありますが、そうした無理をしなければほとんど音はありません。
切断
切断工具としては鋸を始めとして、シンプルにノコギリを電動化した電気ノコギリ、曲線切りならジグソーやバンドソーや糸のこ盤、直線切りなら丸ノコ系の工具が挙げられます。
ノコギリ | 電気ノコギリ | ジグソー | バンドソー |
糸のこ盤 | 丸ノコ | 卓上丸ノコ | スライド丸ノコ |
いずれも大なり小なり騒音が発生し、いずれも比較的やかましいです。
単純な騒音であればやはり電動工具を使わないノコギリが一番静かです。
ノコギリ
ノコギリは特に角材系の材料であれば静かに正確に切断しやすいものです。
ただし注意点もあります。
ここではノコギリの使い方を解説しませんが、うまく使わなくては材料に鋸刃が引っかかって、ガタガタと振動が発生してしまいます。
また、材料を作業台にしっかりと固定しない場合や、そもそも固定している作業台が貧弱・軽量では机字体が揺れてやはりガタガタと振動が発生します。
正確にカットするのは練習が必要ですが、鋸刃が引っかからないスムースなカットであればちょっと練習すればできるようになります。
正確なカットもこうしたソーガイドも市販されていますので有効活用したいです。
また、作業台は重量があり床に固定できる本格的なものがあるに越したことはないでしょう。
しかし、集合住宅では床に固定できませんし、そこまで本格的な作業台は現実的ではありません。
少なくとも普通の机は避けるべきです。
私は普通の机を補強して、重さを増やすために収納をたくさん増設した机をつかっていますが、これでもまだまだ軽すぎて不便です。
床に固定できないのであれば、少なくとも100kgくらいあるといいなぁとは思っています。
作業台自体が揺れると、作業台と床をぶつけあっているも同然で、音の伝播は避けられません。
電動工具などは、最近では安価な製品も増えており、一流メーカーを使わずとも十分です。しかし、静かにDIYをしたいのであれば作業台はしっかりとしたものが欲しいです。
ジグソー
次にDIYでは一般的なのがジグソーです。
これは木材を上から押さえつけながら上下運動する刃で木をカットしていきます。
ただ、一般的なジグソーの刃は粗めで、切断時の振動が大きく機械自体の騒音も大きめです。
出来ることなら避けたい工具ですが、出力や刃のスピードを調整すれば比較的静かに切断することができます。
また、しっかりと体重をかけて木材を抑えつけることで、振動はかなり減らすことができます。
ただし、刃のスピードを落とせばパワーも落ちて、刃が止まってしまいます。
薄い板や柔らかい木材でもなければ騒音を意識して使うとパワー不足に陥るでしょう。
丸ノコ
続いて丸ノコ、卓上丸ノコ、スライド丸ノコといった丸ノコ系の工具です。
これらはうるさい工具の代表です。
切断時にはやかましい甲高い音を発生します。
一方で振動は少なく、遮音しやすいともいえます。
私が今唯一持っている丸ノコは、こちらの超小型なマキタの丸ノコです。
この丸ノコは1400回転という非常にゆっくりとした回転速度で、空転時はドリルより静かなほどです。
詳しくはこちらで紹介しています。
しかし、切断時はやはりうるさいです。
私の自作防音室環境下であれば、ほとんど遮音できるため問題なく使えます。
しかし、防音室がない環境では周囲への音漏れの可能性は極めて高いです。
使用を避けるか、防音室を検討するべきです。
自作防音室を製作した時の状況は以下の記事で詳しく紹介しています。
diy-kagu.hatenablog.com
総額10万円以下で、分解や運搬、収納しやすいことを重視して製作しています。
分解や運搬を考えなければもっと安く、もっと性能の良い防音室を製作することが出来ます。
糸のこ盤
糸のこ盤は回転運動を上下運動に変換しており、構造上振動が発生しやすいです。
同じ上下動をするジグソーは、手持ち工具ですから体重をかけて振動を抑えながら使うこともできますが、糸のこ盤は据え置きということでよっぽどしっかりとした作業台がなければ振動が階下に伝わるのは避けられないでしょう。
バンドソー
バンドソーは帯状の刃を回転させるというシンプルな構造で、糸のこ盤のように振動は発生しません。
また、切断工具としては比較的静かな部類といえます。
しかし、機械音が結構多く、負荷がかかると木との摩擦音もかなりやかましいです。
音の種類は丸ノコ系の工具による切断音よりさらに高音で、耳なりのような辛い高音です。
とはいえ負荷のかからないスペックに対してうすめの板なんかを切るときは空転時の音とほぼ変わらない程度の低騒音での切断もできますから、有力候補と言えます。
参考:【静かなDIY】価格は関係なし!バンドソーは静かな切断工具ではありません。
切断は静かなDIYの大敵
総じて切断は静かなDIYの大敵となります。
基本となるのはしっかりとした作業台+ノコギリと言えるでしょう。
また、床には厚手のジョイントマットなどを敷くのが有効です。20mmを超えるような分厚いモデルも存在します。重ねて敷くのも有効です。
もし電動工具を使いたいのであれば、最有力はバンドソーです。
叩く
続いて叩く作業についてです。
トンカチで釘を叩く、ダボを叩き入れる、ノミで溝を彫る。
そんな時に何かと叩きたいことがあります。しかし、木を叩くとどうしても甲高い音が発生します。
更に床に置いた木材を叩こうものならその打撃音は確実に階下や周囲に伝播します。
そのため叩く作業は切断以上に禁忌です。
釘は使わずネジとドリルを使い、ダボはクランプで押し込み、ノミは彫刻刀のように使うにとどめましょう。
大抵の作業はクランプが解決してくれます。
画像は「高儀 GISUKE L型クランプ 800mm GL-800G」
大きなクランプは高額ですが、背に腹は代えられません。
そんな中でもどうしても一瞬の強い力が欲しい時にはベッドのマットレスの上へ行きましょう。
クッションや座布団では底付きしてしまいますが、ベッドのマットレスなら大丈夫です。
研磨
研磨にはこうした普通の紙やすりやベルトサンダー、エッジサンダー、スピンドルサンダー、ディスクサンダー、ドラムサンダー、オービタルサンダー、ランダムサンダーなどなどたくさんの機械が存在します。
紙やすり | ベルトサンダー | エッジサンダー | スピンドルサンダー |
ディスクサンダー | ドラムサンダー | オービタルサンダー | ランダムサンダー |
基本的にいずれの場合でも、しっかりとした作業台に材料や工具を固定する限りはそれほど音が出るものではありません。
また、振動も同様です。
ポイントは切断の項目でもお話ししたように、しっかりとした作業台です。
丁寧な作業には紙やすりと手作業、粗削りには手持ちのベルトサンダーが有効です。
ただちょっと曲者なのが、DIYにおいて手持ちでよく使われるオービタルサンダーやランダムサンダーです。
これらは振動の力で研磨しており、容易に振動を周囲に伝えてしまいます。
ただ、細かな振動なので何かクッションになるものの上に木材を置いて使用することで振動の伝播を簡単に避けることができます。
小さなものなら膝の上に木材を置いて使えば良いですし、大きなものなら要らない服やクッションなど、何かクッション材を用意しましょう。
さいごに
静かなDIYについて簡単に思いつくものを並べてみました。
これまでも静かなDIYカテゴリーにばらばらと散発的に記事を投稿していましたが、ある程度情報をまとめて更新していきたいと思います。
DIYの騒音に悩まれている方の助けになれば幸いです。
くれぐれも近隣の迷惑にはならないようにDIYを楽しんでいけたらいいですね。
最終手段は防音室です。