モーターから突き出た軸(「モーター軸」)に直接ドリルチャックを取り付ける方法をご紹介します。
ここでは少ない道具で手軽&安価に取り付け出来る、最もラクチンな方法を紹介します。
なお、本来モーター軸に直接ドリルチャックや道具を取り付けるべきではありません。
なぜなら、モーター軸はベアリング2つで支えられており特に横方向の力に弱いです。横方向に力がかかる作業をするとベアリングの消耗を早めます。
また、モーター軸に取り付けるもののバランスが僅かでも狂っていると振動の原因になります。
ベアリング交換自体は簡単&低コストです。
また、消耗を早めるといっても趣味で使う分には負荷の程度にもよりますが数か月~数年もちますからあまり気にしすぎても良くありません。趣味のDIYですから、型にはまる必要はないでしょう。
それでも出来るだけベアリングの負担を減らしたいという場合には、こちらの記事でモーター軸直結工具を作る場合のベアリング保護手順を解説していますので参考にしてみてください。
①モーター軸の太さを知ろう
まず始めに、モーター軸の太さを知りましょう。
メーカーや型番で検索し、メーカーのホームページに製品情報があれば「外形図」としてモーターの寸法が図示されています。
そのなかでモーターの軸の太さを調べてみましょう。
もしデータが見つからなければ単にノギスなどを使って軸の直径を測れば十分です。
モーターの大きさにもよりますが、冒頭の写真にあるようなごくありふれた100Vの単相誘導モーター(200W)では14mmであることが多いようです。
もう1つ使っている25Wの小型なモーター(日本電産サーボ IH8S25)の軸は8mmでした。
今回はこちらの25Wの小型なモーターにドリルチャックを直結してみたいと思います。
②ドリルチャックを選ぼう
続いてドリルチャックを選択しましょう。
特に何がオススメと言うことはありませんが、ポイントはネジ型である点と軸のネジサイズです。
ドリルチャックにはテーパー型とネジ型があります。
テーパー型を使う場合、アーバーを自作したり市販のアーバーを使うこともできますが、ネジ型の方が簡単で安価に済みますので、ここではネジ型を勧めています。
ドリルチャックはピンキリですが、あえてオススメを挙げておくとすれば以下の商品でしょうか。
ネジ型で軸のネジサイズは3/8-24UNFです。
もっと安いものでも構いませんが、価格と性能のバランスを考えてパナソニック製のこちらをオススメとして挙げています。
私の場合、手持ちのドリルチャックがあるため手持ちを使います。
残念ながら、手持ちのドリルチャックの軸のネジサイズは1/2-20UNFです。
次の「③カップリングを選ぼう」の項目で詳しく説明しますが、3/8-24UNFを選んだ方が楽チンです。
なお、ドリルチャックで採用される軸のネジサイズは1/2-20UNFと3/8-24UNFの2種類があります。見慣れない表記ですが、これはインチネジの一種でユニファイネジのサイズ表記です。
余談:チャックの軸に使われるユニファイネジとは?
一般的なネジはメートルネジと呼ばれ、サイズ(呼び径)はM6やM8という呼び方をします。M6であればネジの外径(ネジ山が切られている部分の直径・ネジ山の頂点)が6mmですし、M8なら8mmです。
ドリルチャックに採用されているのはインチネジと呼ばれるネジです。
更に、インチネジの中にも種類があって、その一つがドリルチャックに使われる「ユニファイネジ」です。
メートルネジのM6やM8という呼び方に相当するのが1/2や3/8です。
1/2は外径が1/2インチ(12.7mm)、3/8は外径が3/8インチ(9.525mm)ということです。
そのあとに続く20や24と言う数字は1インチ(25.4mm)あたりのネジ山の数を表しています。
「1/2-20」という表記は、外径1/2インチ(12.7mm)で1インチあたり20山あるネジという意味です。
ちなみに1/2ネジには20山のほか、13山の規格も存在します。
13山は並目と呼ばれ、20山は細目と呼ばれ、更にそれぞれ並目はUNC、細目はUNFと呼ばれます。
つまり、1/2-20UNFは「外径1/2インチの細目のユニファイネジ」ということになります。
店頭ではあまり見かけませんが、中規模以上のホームセンターであれば、少しはラインナップがあるはずです。出来れば他の必要部材と合わせて通販で買いそろえるのが良いでしょう。
▼ホームセンターに並ぶ1/2-20UNFのネジ(鉄製がなくステンレス製のラインナップしかなくやや高額)
「UNF」と明記されていますね。
よく見かけるW1/2やW3/8というネジはまた違う種類になるので要注意です。
③カップリングを選ぼう
次にドリルチャックとモーター軸を連結するためのカップリングを購入します。
カップリングとはこういうものです。
カップリングは、モーター軸ともう1つの軸を連結するための部品です。
モーターを購入する際にオプションとして選択することもできることからもわかる通り、モーター軸に何かを取り付けるために適した部品という訳です。
カップリングは、同じ太さの軸同士を連結したり、違う太さの軸同士を連結したりすることができます。また、軸同士が綺麗に水平ではなく偏心している場合、角度がある場合にもその歪みを吸収してくれるバリエーションなども存在します。
今回のように趣味でモーター軸直結で使う場合、特にこだわる必要はないでしょう。最もスタンダードなリジットを選ぶか、サイズが合っていて一番安いものでOKだと思います。一般的にはオルダム型のカップリングが勧められるようです。
カップリングは形状と軸径で選択します。
形状は先述の通りなんでも良いです。
軸径は以下のように選びます。
- 一方の軸径はモーター軸の外径
- 一方の軸径はドリルチャックのネジサイズの直径
モーター軸の径は、先ほど確認方法を紹介しました。
今回私が実際に使うモーター(日本電産サーボ IH8S25)の場合には8mmということになります。
ドリルチャックの軸ネジの直径は、以下の通りです。
- 1/2-20UNFのドリルチャック:12.7mm
- 3/8-24UNFのドリルチャック:9.525mm
ちなみに、先ほどオススメしたパナソニックのドリルチャックを選んだ場合には、ネジサイズは3/8-24UNF=9.525mmです。
つまり、カップリングは10mmを選べばばっちりでしょう。
一方で1/2-20UNF=12.7mmの場合はちょっと厄介です。
13mmのカップリングがあると最高ですが、残念ながらカップリングには13mmのラインナップはありません。
そのため対策としては以下の3つが挙げられます。
- 12mmのカップリングを選択してネジの外径を削る
- 14mmのカップリングを選択してネジにテープ等を巻き付けて足りない外径を補う
- クランピングタイプの12mmのカップリングを選択する
残念なことに、先述の通り今回私が使用するドリルチャックは1/2-20UNFです。
対策は3つ挙げましたが、圧倒的に3番目が楽です。
しかし、ネジの外径を削るという工作に興味があったため、1番目の方法を採用したいと思います。
カップリングには軸を固定する方法として、「セットスクリュー」と「クランピング」があります。
セットスクリュー | クランピング |
---|---|
軸を小さなイモネジで固定するタイプです。 軸に平面があるD型の軸に使われることが多いです。価格は安価です。 |
軸をカップリング全体で締めこむタイプです。 ネジを締めこむことでカップリングの穴が締めこまれていきます。 |
というわけで、今回の私のケースでは8mm-12mmのカップリングを選択しました。
あまりメーカーや形状は気にする必要はありません。
Amazonでいうと以下の製品がマッチします。
こちらのカップリングを含め、AmazonでDIY用品をチェックしていると「uxcell」さんの出品をよく目にします。とにかく安価でバリエーションが豊富であることが特徴です。
私も実際に何度も利用していますが、気を付けなければいけないのが納期です。
安さと引き換えに、中国から直接発送しているため長い時は2週間くらい待つことも珍しくありません。
④必要部材を揃えよう
ここまでで主要な部品の選定が出来ました。
モーターは既に選定済みとして、以下の部品が必要であることがわかりました。
- ドリルチャック
- カップリング
これらに加えて、以下の部品や工具も必要になります。
- ボルト(ドリルチャックのネジサイズと同じもの)
- 金属用の鋸(金属を切れる鋸やその他工具)
- ネジの緩み止め接着剤
ボルトの選び方
ボルトはドリルチャックのネジサイズと同じものを選びます。
オススメした3/8-24UNFのドリルチャックを使う場合は3/8-24UNFのボルトを選びます。同様に1/2-20UNFのドリルチャックを使う場合は1/2-20UNFのボルトを選びます。
ユニファイネジの長さはインチで表示されます。
今回の用途では、2~3インチほどあれば良いでしょう。本数は1本でOKです。
以下のリンクのうち「Amazonで見る」を選択すると、3/8-24UNFの2インチの商品ページが開きます。楽天市場とYahooショッピングの場合、商品ページには直接飛びませんのでご注意ください。
同様に、以下のリンクのうち「Amazonで見る」を選択すると、1/2-20UNFの2.5インチの商品ページが開きます。
金属用の鋸の選び方
さて、ボルトの選び方を紹介しましたが、本来であれば下図のような寸切りボルトが必要です。
しかし、ユニファイネジの寸切りボルトはなかなか取り扱いがありません。
そこで、ボルトを買ってボルトの頭の部分を切り落とします。寸切りボルトを自作するわけです。
そのために鋸が必要になります。
金属切断用の鋸ならなんでもOKです。
ボルトの切断は大変そうですが、500円くらいで売っている金属用の弓鋸でも少し時間がかかるものの切断可能です。
ちゃんとしたものが欲しい場合でも、1000円少々で手に入るこちらで十分です。
もちろんグラインダーなど、金属切断が出来る道具が他にある場合には必要ありません。
ネジの緩み止め接着剤について
最後に、ネジの緩み止め接着剤についてですが、これは後から必要性を感じたら購入しても構いません。
今回は回転軸にボルトを使うため、使っているうちに緩む恐れがあります。細目の太いボルトでしっかりと締め付ければ実際にはそうそう緩むこともありません。
⑤モーター軸の直結方法
ここまで全体の構想を説明していませんでしたが、今回はこんな風にドリルチャックをモーターに直結します。3/8-24UNFのドリルチャックを使う場合は、ボルトのサイズは3/8-24UNFに置き換えて考えてください。
ドリルチャックは付属の軸を取り外し、代わりにボルトを締めこみます。
そうして出来たボルト付きのドリルチャックとモーター軸をカップリングで接続します。
非常に簡単です。
私の場合には、モーター側のベアリングの負荷低減のため、以下のようにベアリングを入れたいと思います。
ボルトはドリルチャックに対してしっかりと締めこむことで、そうそう緩まなくなりますが、念のためにネジの緩み止め接着剤があると良いでしょう。
⑥作業手順
最後に実際の私の作業途中の写真を交えながら、作業手順を解説していきます。
1. ドリルチャックを分解する
始めにドリルチャックを分解します。
ドリルチャックについている軸(シャンク)を取り外します。
チャックの中を覗くと、奥にプラスネジが見えます。
これを普通にドライバーで回して外しますが、逆ネジです。右回し(時計回し)で緩みます。
ネジが外れました。
次に軸を外していきます。
大きな六角ボルト部分を緩めればいい訳ですが、非常に硬いです。
しっかりと支えるためにチャックに大きめのL字の六角レンチを噛ませます。
次に作業台に固定したモンキーレンチで六角ボルト部分を固定し、
手でおさえながら、六角レンチのお尻をハンマーでたたきます。
外れました。
2. ボルトを切断する
続いてボルトの頭を切断します。
ボルトを万力で固定したり、机にクランプで固定して、金属用の鋸で頑張って切断します。
私は400円~500円で購入した弓鋸を使用します。
刃は替えがあると良いですが、私は1/2-20UNFを刃の交換なしで切断できました。
休み休みやって30分くらいかかりました。
ギコギコ動かし続ける元気があれば10分か15分くらいで切り終えられると思います。細い3/8-24UNFであればもっと早いでしょう。
頭を切り落としたボルトをドリルチャックにねじ込めば、ボルト付きのドリルチャックの完成です。
この時に、先述の緩み止めの接着剤を付けると良いでしょう。
また、もしボルトに対応するナットがあれば、ナットを締めこむことでぐっと緩みにくくなります。
2.5. ボルトの外径を削る
3/8-24UNFのドリルチャックを選んだ場合には不要な手順です。
1/2-20UNFのドリルチャックを選んだ場合でも12mmのクランピングタイプのカップリングや14mmのカップリングを選んでいれば不要な手順です。
1/2-20UNFのドリルチャックと12mmのカップリングを選んだ締まったため、ネジの外径を12mm以下まで削る必要があります。
12.7mmを12mmまで、0.7mm削る必要があります。
1/2ボルトを直接加えこませられるチャックがないため、手持ちのドリルに双頭のプラスビットを咥えこませ、今回購入したチャックでプラスビットの反対を咥えこませます。
そして軸のないチャックのお尻に1/2ボルトを締めこみます。
これをこのように万力に固定して、やすりで外径を削っていきます。
地道な作業です。
3. 組立
これで必要な部品は揃いました。
今回、私はセットスクリュータイプのリジットカップリングを選択しました。最も安い形状です。
モーター軸をカップリングに挿入し、反対側にボルト付きのドリルチャックを挿入すれば完成です。
続いて設置ですが、今回私の場合には机に設置したいので天板に穴をあけます。
天板の裏面からモーターをネジ止めすれば、完成です。
これを何に使うかと言うと、スプーンのすくいなどの凹面を綺麗に磨くための道具にする予定です。
そちらはまた今度紹介します。
まとめ
モーター軸にドリルチャックを直結する最も簡単で安価な方法を紹介しました。
この方法を使うことでドリルチャック以外にも様々なものを取り付けることができます。
もちろんモーター軸の延長線上に今回で言うドリルチャックや重量物を配置すると、モーター内のベアリングへの負荷や、ごく僅かな偏心・重量バランスによる振動などが問題になります。
よりハードや用途や、低振動を目指す場合にはやはりベルト駆動がオススメです。
また、カップリングを使って直結する場合でも以下のようにモーター側・相手側ともにしっかりと台や床に固定されていることが理想的です。
しかし、趣味でちょっと使うだけならこのような手軽な方法でも十分な道具が作れますと言う紹介でした。