野地板(のじいた)やバタ角(ばたかく)と呼ばれる木材が安いです。
ホームセンターで手に入る板や角材としてはダントツの安さを誇るツートップですが、その安さには理由があります。特にDIYや趣味の木工、セルフリフォームでこうした木材を使う時には特徴を知らないと大変な後悔をすることになりかねません。
ここでは、こうした木材が「なぜ安いか?」「何が悪いか?」「どうしたら作品作りに活用できるか?」という3つのポイントについて解説します。
なぜ安いか?
安いものには理由があります。
そもそも野地板やバタ角とはナニモノなのかご存知ですか?
野地板やバタ角の多くは国産の杉です。最も安価かつ大量に供給されており、建材や土木関連を中心に幅広く使われています。「国産杉」と言ってしまえばなんとなく良いものに聞こえますが、杉と言ってもピンキリです。
野地板やバタ角として販売される杉は、木の品質自体に問題があるわけではありませんが、加工と仕上げが雑な木材です。
通常の木材は以下のような工程を経て建築現場やホームセンターを通じて私たちの手元に届きます。
- 皮を剥ぐ
- 製材する(用途にあわせてざっくりとカット)
- 乾燥(一般的には機械を使った強制乾燥)
- 加工(木口の割れを切断したり、平面や直角出し、寸法に合わせた切断皮を剥いで製材し)
- プレーナー加工(表面仕上げ。機械を使ったかんな掛けのようなもの)
途中で虫食いや節の程度などにあわせて選別も行われます。特に節が少なく選別された木材は上等です。芯のある太い角材でも適宜背割りなどが入れられています。
一方で、野地板やバタ角はこうした乾燥や加工工程をスキップして、寸法すらざっくりと製材してそのまま流通しています。上に説明した工程でいうと2番の工程でそのまま出荷されています。
通常の木材のように、角は直角が出ておらず、寸法すら誤差があります。皮の入りやむしれもあって可用部は寸法通りとは限りません。当然、水分を多量に含んでいます。伐採までの工程は通常の木材と同じですが、その後の加工工程をほとんど省いているために安いのです。(正確には伐採する木自体も十分な太さがないことも多いです。)
どれくらい水分を含んでいるかというと、野地板を切断していると冷たい水の飛沫が舞うほどです。物理的に体感できます。(冷たくて気持ち良い)
これは決して悪いことではなく、造作や木工作品作り以外の、木の狂いや仕上がりの悪さを求めないシーンでは安くて大量に手に入るため大変需要があります。例えばコンクリートの型枠にしたり、正確性が求められず、目に見えない下地などに使うには十分でしょう。
ちなみにバタ角の「バタ」とは端っこという意味で、皮が残っており綺麗な四角になっていないことが特徴です。実際には木の端っこという意味ではなく、木の端っこが残っている角材という意味です。90mmの角材にするにも満たないような細い木材を、ざっくり90mmに切り出して販売しているわけです。
何が悪いか?
なぜ安いかがわかったところで、何が悪いかを解説します。
これまで説明した通り、野地板やバタ角の問題点は以下の3点です。
- 含水率が高い(未乾燥)
- 仕上げが悪い
- 質が低い
1.含水率が高い(未乾燥)
木材とそこに含まれる水分は、どのような用途においても切っては切り離せません。
生きている木は常に水を根から吸い上げ、木の中には多量の水分が含まれています。これが伐採されて、人工的あるいは自然に乾燥されることで樹種によりますがおおよそ15%程まで低下します。
こうして十分に水分が抜けた木は「乾燥済み」と判断されます。
面白いことに木の含水率はある一定の値まで下がると、その近辺で安定します。例えば含水率が15%まで落ちた木を水に沈めたところで、そう簡単には30%、40%とは上がっていかないのです。
野地板やバタ角は含水率が高く、乾燥が済んでいない「生木」です。
購入してから数週間から数か月、あるいは数年という時間をかけて水分が抜けていきます。この過程で生じるのが「反り」や「捻じれ」、「割れ」です。
反り・捻じれ・割れは木の特徴のひとつではありますが、未乾燥の木材を使うということはその症状が顕著です。
つまり、「何に使うか?」「どこで使うか?」「どのように使うか?」など乾燥に伴う変化を見越して慎重に用途を判断する必要があるということです。反ったり割れないように加工しても良いですし、反っても割れても良い場所に使うのも良いでしょう。
また、オイルや防腐剤・防虫剤と言った浸透系の塗料を塗っても、新たに生じる割れには無意味なため、結果的に腐食しやすいことにもつながります。いわゆるペンキを始めとした造膜系の塗料を使っても、塗膜のひび割れや剝がれが起きやすいです。
木材専用の塗料であっても、乾燥が済んでいない生木への塗布は効果が薄れるとメーカーが注意を促しています。
2.仕上げが悪い
野地板やバタ角は、製材所でざっくりとカットされてそのままホームセンターなどの店先に並びます。ここで使われるのは大型の帯鋸で、当然断面にはノコギリの目がそのまま残っています。
これはざらつきというレベルではなく、「段々」と表現した方が良いでしょう。80番や40番などかなり粗いサンドペーパーを使っても、これを平坦にすることは難しいです。特にオービタルサンダーやランダムアクションサンダーといった仕上げ用の工具ではいつまでたっても平面を出せません。
こうしたざらつきや段々を気にしない用途であれば構いませんが、そうでなければ通常の木材と同じように仕上げ工程を挟む必要があるでしょう。
仕上げの方法としては主に以下のようなものがあります。
- 手押しカンナによる平面と直角出し
- 自動カンナによる表面のかんな仕上げ
- ベルトサンダーやディスクグラインダーによる研磨仕上げ
もし野地板やバタ角を「まっとうな木材」と同じように仕上げたいとなった場合には手押しカンナが必要です。手押しカンナで平面と直角を出して、これを基準にして自動カンナで表面を仕上げます。
ここまでやれば市販の木材と同様に直角も出ており表面もツヤツヤと綺麗です。
もし正確な直角は出さなくても良いから表面の粗を取りたいということであれば、ベルトサンダーやディスクグラインダーにサンドペーパーのパッドを取り付けて研磨します。オービタルサンダーやランダムアクションサンダーとは違って、極めて粗い粗削りですが、ざらつきも段々も綺麗に取ることができます。
DIYではあまり使用されませんが、ディスクグラインダー(下記①)に、サンドペーパーを取り付けできるパッド(②)を取り付け、粗いサンドペーパー(③)を装着します。
①ディスクグラインダー | ②ディスクグラインダー用 サンディングパッド |
③サンドペーパー |
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とんでもなく研磨力が高く、ガンガン削ることができます。仕上げ用のオービタルサンダーやランダムアクションサンダーと違って集塵機能がないので粉塵が激しく舞います。防塵マスクなどは必須でしょう。
手持ちのベルトサンダーも安価で研磨力に優れます。
しかし、研磨する面がディスクグラインダーに比べると広く取り回しが悪いため、野地板などの広い面積を大量に研磨しようとすると想像以上に時間がかかります。また接触面が広いためにモーターへの負荷も大きく、モーターが過熱して連続作業が難しい場合もあります。手持ちの電動かんなという選択肢もありますが、綺麗な面を出すには習熟が必要なためここでは省略します。
工具があったとしてもここまで手間をかけるなら、最初から普通の木材を買った方が良い、と思われる方も多いと思います。それが普通の木材の存在意義ですからその通りです。
3.質が悪い
野地板やバタ角は、ここまで紹介した「乾燥」と「仕上げ」の問題をクリアすれば普通に使えるという訳ではありません。なぜなら元から綺麗に仕上げて使うことを前提としていないため、皮が入っていたり、端っこがむしれていたり、カビが生えていたり、虫食いがあったり、節が多かったりします。そのため頑張って時間をかけて綺麗に仕上げても、期待外れな出来栄えになることもあります。
樹種の良し悪しは好みによるところが大きいためランク付けに意味は薄いですが、杉は上・中・下で言えば「下」に位置します。国産の最高級やブランド杉などと呼ばれるものですら、「下の上」でしかありません。そんななかで野地板やバタ角になるのは「下の下」です。
小綺麗な仕上げを求めないシーンや、目に見えない部分に使う。あるいはペンキなどで完全に塗装して使うなどよく使い道を考える必要があるでしょう。
どうしたら作品作りに活用できるのか?
いろいろと悪い点を紹介しましたが、そうはいってもこの安さは魅力!
ということで野地板やバタ角を活用する方法を紹介します。
方法1.木材として仕上げる
一つ目の方法は木材としてキチンと仕上げる方法です。
つまり、安く木材を買う代わりに、その分の手間をかけて仕上げてやろうというわけです。本末転倒な気もしますが、DIYを楽しむという意味では大いにアリ、ではないでしょうか?
野地板やバタ角はおおよそ直角は出ているもののむしれや皮の入りも多く、乾燥に伴い割れや反り、捻じれも生じます。
そのため購入してきた野地板やバタ角は一度乾燥させましょう。
野地板の場合には地面から浮かせて並べ、重ねる場合には角材などを渡して野地板同士が触れないように並べます。
バタ角の場合には、割れの位置を誘導し、乾燥スピードを速めるために背割り(※)を入れるとなお良いです。背割りを入れる向きもあるのですが、バタ角の場合には大抵の場合は芯のど真ん中を使っているのでどの面でも構いませんので半分くらいの深さまで切り込みをいれます。浅めの切り込みでも意味はありますので、手持ちの道具でできる範囲で構いません。
※背割り:太い角材の乾燥の促進と割れの誘導のために、角材の4面のうち1面に深い切れ込みを入れます。これを「背割り」と言います。もちろん2面、3面、4面、と切り込みを入れる面を増やせば乾燥しやすくなりますが、使用時に表面に切れ込みが見えると不格好なため1面にだけ入れられることが多いです。背割りを入れるのは、割れやすい木表の反対の木裏ですが、先述の通り「バタ角」はほぼ芯ど真ん中なので向きを気にする必要はありません。
乾燥工程は、屋外の雨ざらしでも構いませんが、屋根がある方が良いでしょう。もちろん室内でも構いません。扇風機などで風を当て続けると乾燥スピードが速まります。
乾燥具合を数値で知るには専用の機械が必要ですが、手触りや重さでも判断することができます。同程度の木材と比較して持ち比べてみると良いでしょう。市販の機械では計測する面によって数値のブレが大きいなど「目安」程度の精度しかないことに注意してください。乾燥すると、手触り自体がしっとりと冷たいものから木のぬくもりを感じるものへ変わっているはずです。
野地板であれば1~2週間、バタ角であれば4~6週間ほどおくと「それなりに」乾燥します。(風通しの良い室内や屋根の下の場合)市販の乾燥材のように安定する領域まで乾燥していませんが、初期の急速な乾燥はこれくらいの期間で完了します。
次に手押しカンナで平面を出して、更に直角を出し、自動カンナで仕上げます。
ここら辺の道具を持っている方にもなるともう説明はいらないでしょう。自動カンナで1面の平面を出してから、テーブルソーなどで直角を出して仕上げる方法などやり方はいろいろあります。手持ちの電動カンナは安価ですが習熟が必要で、なかなか面を綺麗に出すのは難しいです。
もし正確な直角が不要であれば、ディスクグラインダーやベルトサンダーなど研磨力に優れる方法でガンガン表面を削って納得できる仕上がりになるまで研磨すればOKです。
ここまでくればあとは市販の木材のように使うことができます。
方法2.そのまま使う
2つ目の方法は、こうした野地板やバタ角といった生木のデメリットを無視してそのまま使う方法です。
「ちょっと無茶なんじゃ・・・」と思われそうですが実はそうでもありません。確かに塗料を塗っても割れたり反ったりしますが、例えばウッドフェンスやウッドプランターを始めとした木のガーデン用品のように、そこまで見た目の粗さが気にならないシチュエーションも多いです。
ウッドフェンスに使う場合は、きちんと木裏を使って適切にビス止めすれば反りが気になることも少ないでしょう。インテリアの一部や壁のアクセントして使う場合でも、十分に研磨したり、塗装を施せば荒々しいインダストリアルな雰囲気やアンティークな雰囲気にマッチする部材にすることも可能です。
塗装も割れが出たり、塗膜が剥がれてしまったとしても、その部分だけ磨いて塗りなおせば十分です。腐ってしまっても、その部分だけ張り替えれば十分でしょう。
こうして割り切って使う分には、野地板やバタ角は十分な素養を秘めています。