家のお庭を囲うフェンスは、初心者でも手軽に楽しむことができるDIYのひとつです。
もちろん複雑な構造となれば難易度は上がります。
また、強風時の事故の恐れもあることから、世間一般で言われるほど初心者向きのDIYとは言えないのですが、一旦この話は置いておきましょう。
ここではフェンスを支える柱、支柱に関するお話です。
フェンスの支柱と言えば、一般的には木の角材かアルミの各パイプが使用されます。
(家畜用の柵など、意匠性を求めない一部の用途では鉄の丸パイプが使われますがここではおいておきます。)
フェンスを検討される多くの方が、耐久性があって風にも負けない強度を求めます。
そのために太く厚い角材やアルミ角パイプを探すと、その高さに驚かれることでしょう。
特にアルミの角パイプのうち、構造用に適したものともなれば驚くほど高価です。
そこで是非検討してみたいのが「鉄」の支柱です。
「鉄」の支柱の強み
鉄は安価で高強度な金属です。
その強度はアルミの数倍。実際には複雑な計算しないことには比較にならないのですが、フェンスに使われるような角パイプの場合には鉄の角パイプと同じ強度のアルミの角パイプを用意しようとすれば、その厚みは3~4倍あるいはそれ以上の厚みが必要です。
例えば60mm角のパイプで考えてみましょう。
一般的な鉄の角パイプの厚みは薄くても1.6mm、厚いもので3.2mmあります。
つまり、これと同じだけの強度を持ったアルミの角パイプを探そうとすると厚みが5~12mmほどとなり、当然そんなものはオーダーメイドでもしない限り販売されていません。
一般的なアルミの角パイプの厚みは2.0mmです。
単純に厚みと強度の関係だけ見れば、アルミの角パイプ(2.0mm厚)は鉄の角パイプ(1.6mm厚)の3分の1程度の強度しかないのです。
それにも関わらず、価格はアルミの方が1.5倍以上します。
(実際には既製品のフェンス用の柱は、アルミの角パイプのなかに補強用に鉄の角パイプが入っており、アルミは化粧材としての役割が強いです。)
このことから、鉄の角パイプを支柱にすることで、支柱をアルミ以上に細く強くしたり、支柱の間隔を広げることも容易です。
あえて太い支柱を選択することで、見た目のインパクトや高級感につなげることもできます。
また、元々の厚みがあるため研磨したり、塗装の乗りも良いため塗装してリメイクするのも簡単です。
鉄は様々な用途に使われますから、サイズや厚みの選択肢も幅広い点も大きなメリットと言えるでしょう。
なぜフェンスの支柱に「鉄」が使われないのか?
ここまで「鉄」支柱のメリットを紹介しました。
なにより安く・強いことがメリットの鉄ですが、それではなぜフェンスの支柱として鉄が使われないのでしょうか?
理由は大きく分けて2つあります。
理由1.腐食とメンテナンス
鉄といえば、錆びる金属の代表です。
アルミもその他の金属も錆びる(腐食)のですが、とにかく鉄は錆びやすく、錆びも赤茶色く目立つのが特徴です。
当然市販の鉄パイプは、メッキ処理や塗装処理済みですが、それでも些細な傷などから水や空気が進入して腐食が始まります。
フェンスの場合、この鉄に対してフェンス本体を取り付けます。
本体を取り付けてしまえば、DIYが得意な方を除けば着脱は容易ではありません。
本体を外してしまえば、適宜錆びとりと再塗装をしてまた長く使うこともできますが、本体を外せないと細かな隙間にうまく錆びとりや再塗装ができず、その部分からまたすぐに錆が侵食してしまうのです。
地中に埋設された部分も同様です。
そのため鉄の支柱が錆びてしまった時にメンテナンスが難しく、見た目が悪くなりがちなのです。
基本的に既製品のフェンスはメンテナンスフリーであることが求められるため、定期的なメンテナンスが必要な「鉄」は避けられてしまいます。
理由2.運搬性と作業性
「鉄」は「アルミ」に比べて重い金属として知られています。
冒頭で説明したように、鉄と同じ強度のアルミを用意しようとすると厚みが増し、よほど良いアルミを使わない限りは軽量化はあまり見込めないのが実情です。
しかし、実際にはそこまでの強度を求められないため、強度が低いものの軽く薄いアルミが重宝されます。
これは工場を出荷されて一般家庭の外構工事の現場まで持ち込まれるまでの運搬性に大きく関係します。
また、施工作業者にとっても、軽量なアルミの角パイプは非常にありがたい存在です。
「鉄」の最大の敵である「腐食」と強度低下
鉄は安く強いが腐食することがここまでの説明でわかりました。
しかし、腐食するのであれば強度が落ち、結局はアルミの方が長期的には強度に優れるのではないか?と思われる方も多いと思います。
ここでいくつかの実験データを紹介します。
金属 | 腐食の進行(10年) |
---|---|
鉄(大気中) | 0.1mm |
鉄(土中) | 0.3mm |
鉄(洋上) | 1mm |
アルミ(大気中) | 0.02mm |
これはいくつかの実験データ(下記参考リンク)より抽出したデータを平易に書き均したものです。
正確性は落ちますが、わかりやすくざっくりと表現したものです。
鉄は大気中に置くと10年で0.1mm程度腐食します。
ざっくりと10年で0.1mm薄くなると考えても良いでしょう。
同様に、土のなかに埋設された鉄は10年で0.3mm、海の上の鉄は1mm薄くなります。
これがアルミの場合、10年で0.02mmと非常に腐食の進行が遅いことがわかります。
このデータを前提とし、仮に鉄と同じ強度のアルミは3.5倍の強度が必要という前提で経過年数と強度の関係を図に示します。
鉄は一般的な2.3mm厚の60mm角パイプ、アルミは2.0mm厚の60mm角パイプという想定です。
新品の鉄の2.3mm厚の角パイプの強度を基準(100)として計算しています。
経過年数 | 鉄 | アルミ |
---|---|---|
新品 | 100 | 28.6 |
10年 | 95.7 | 28.3 |
20年 | 91.3 | 28.0 |
30年 | 87.0 | 27.7 |
40年 | 82.6 | 27.4 |
50年 | 78.3 | 27.1 |
100年 | 56.5 | 25.7 |
繰り返しになりますが、非常に雑な計算に基づいています。実際には素材の引張強度、降伏点(耐力)などを基に計算します。
鉄が腐食により新品のアルミの強度まで落ちるのは166年後のことです。
実際には腐食の進行はムラがでるためもっと早く弱い所から折れる可能性が高いでしょう。
その一方で、これは完全に生地の鉄とアルミの場合の話です。
実際には鉄は防腐塗装が施されていますし、アルミもアルマイト処理がされています。
適切に防腐処理がされていれば、理論上は腐食の進行はほぼゼロに抑え込めますから、いかに定期的なメンテナンスが重要かがわかると思います。
アルミニウムの腐食のやさしいおはなし:https://www.uacj.co.jp/review/uacj/vol3no1/pdf/vol3no1_07.pdf
海洋環 境 における金属 材料 の腐食 と防食:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime1966/16/3/16_3_180/_pdf
まとめ
「鉄」の支柱はメンテナンスが必要だけど安くて強度が高いことがお分かりいただけたと思います。
意匠性を重視した「木」やメンテナンス性を重視した「アルミ」と良いとこ取りをして、芯に鉄を入れて周りを木やアルミで覆うという手法も存在します。
その昔、家の構造材として露出面に鉄の角パイプが使われることもありました。
現在でも意匠性を重視しない場所では採用されるケースが少なくありません。
しかし、フェンスの意匠性はそのほとんどがフェンス本体で決まり、ただの角柱に過ぎない支柱の重要度は低いです。
DIYでフェンスを自作する際には、是非一度「鉄」の使用も検討してみてはいかがでしょうか?
おまけ:ネット通販で鉄の角パイプの入手
鉄・アルミなど素材を問わずネットで角パイプや木の角材を購入すると割高になりがちです。
これは送料が主な原因で、重く大きな鉄角パイプともなればそれはより一層顕著になります。
小規模なホームセンターでは、鉄の丸パイプは売っていても角パイプは売っていないことも往々にしてあります。
そんななかで鉄の角パイプが安価に手に入るネットショップとしては楽天市場に出店している「現場屋さん 楽天市場店」さんが良心的です。塗装済みでフェンスDIYでは使いやすい50mm角パイプ(1.6mm厚)であれば2メートルで2,000円程度から販売しています。
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なお、こちらのように未塗装(生地と呼ばれる)の角パイプもありますが、届いた時点で錆が出ていたり、到着後に保管している間に錆が出たりして、塗装する前に結局下地作りが必要になります。
価格差もそれほど多くないので、塗装済みの角パイプを購入して、必要に応じて上から塗装を塗った方が結果的には簡単にうまくいきます。