2019年6月16日加筆修正
賃貸(アパート・マンション)における木工や家具つくりといったDIYのための防音室を作りたいと思います。
自作防音室に関する情報は数あれど、その多くは音楽用です。
今回はDIYなどの作業用に特化した防音室を製作したいと思います。
また、据え置き型の防音室製作は簡単ですが、今回は賃貸向けということで引っ越しも視野に入れます。
分解・組立が容易であること、そして運搬性、収納時の収まりの良さなども重要なポイントです。
ポイントは以下の4点です。
- 階下への防振性・防音性に優れる
- 軽量で運搬しやすい部品に分割可能
- 分解した状態でコンパクトにまとめられる
- 予算5万円(目標)
製作が長期化し9つの長い記事になりましたので、本記事ではダイジェスト版として制作記をギュッとまとめて紹介します。
各記事へのリンク
始めに、より詳細に制作記をご覧になりたい場合には以下のリンクからご覧ください。
当初は前中後編くらいで終わると見込んでいたのですが、進めれば進めるだけ課題が見つかって大変長いシリーズになってしまいました。
- DIY用自作防音室#1(構想編)
- DIY用自作防音室#2(防音の勉強編)
- DIY用自作防音室#3(設計編)
- DIY用自作防音室#4(設計・必要部材・木取りの紹介編)
- DIY用自作防音室#5(準備編)
- DIY用自作防音室#6(製作/前編)
- DIY用自作防音室#7(製作/中編)
- DIY用自作防音室#8(製作/後編)
- DIY用自作防音室#9(仕上げ編)
1. 構想
防音室は歌や楽器演奏といった音楽のために使用されることが多いです。
そのため、自作防音室について調べて見つかる情報は、音楽用の自作防音室に関する情報ばかりです。
残念ながら、DIY向けの防音室に関する情報は多くありません。
手探りな部分もありますが、既存の防音室の構造を参考にしながら、DIYに特化した防音室を作ります。
まずはじめに、基本構造としては一般的な防音室にも採用される「2重構造」を採用します。
2重構造の作り方は、単純に骨組みを2枚の板でサンドイッチする方法です。
サンドイッチした中には、遮音材と吸音材を詰め込みます。
素材には、通常の防音室作りであれば「石膏ボード」を使用します。
「石膏ボード」は厚く重く大きく、そして驚くほど安いです。防音室作りにこれ以上の材料はありません。
その反面、石膏ボードは割れやすく分解・組立・運搬を考えると使いにくい材料でもあります。
将来の運搬のことを考えなければ、遮音性に優れて安い「石膏ボード」を使うべきです。
しかし、今回は将来の引っ越しなども見据えて簡単に分解・組立・運搬できる構造とします。
具体的にはこんな要件です。
- 簡単に分解・組立できる
- 分解したパーツはすべて突起等のない四角形(直方体)
- 分解したパーツのサイズは原則同じサイズ
- 雑に扱っても良い素材を使う
- 運搬が苦ではない程度の重要に抑える
1. 簡単に分解・組立できる
すべてのパーツを鬼目ナットとボルトで固定します。
固定箇所は強度を犠牲としない範囲で必要最小限とします。
2. 分解したパーツはすべて突起等のない四角形(直方体)
使わなくなった時や必要に応じて分解できるようにします。
更に、分解したパーツはすべて突起のない直方体とし、コンパクト&スマートに収納することができるようにします。
3. 分解したパーツのサイズは原則同じサイズ
分解したパーツのサイズを揃えることで、分解時に綺麗に積み上げてコンパクト&スマートに収納できるようにします。
4. 雑に扱っても良い素材を使う
使わない時に積み重ねたり立てかけたりして収納したり、運搬することも想定して衝撃を与えても問題ない素材を使用します。
5. 運搬が苦ではない程度の重量に抑える
防音室と言えば重ければ重いほど良いわけですが、今回は可能な限り軽量に仕上げます。
もっと詳しく見る:DIY用自作防音室#1(構想編)
2. 防音の知識
音楽用の防音とDIY用の防音ではちょっと違う部分があります。
はじめに、DIYでは以下の2種類の音が発生します。
- 電動工具等の作動音(高音・防音しやすい)
- 切断時の振動や叩いたり打つ音(低音・防音しづらい)
前者は、電動工具のモーター音やギア音が代表的です。
振動を伴わない高音で、家電でいうところの掃除機やミキサーなどの音に近いものです。最近の鉄筋コンクリート造のマンションや、遮音性の高い家では漏れ出すことは少ないです。
その反面、室内で音が激しく反響するため実際の音以上にうるさく感じてしまうことがあります。
後者は、木材の切断時の振動や打撃音などの低音や振動です。
DIYでは、強固で重量級の本格的な作業机を使っている方は多くないでしょう。そうした不安定で軽量な作業机で作業する場合、作業机ごとガタガタ揺れてしまう場合もあります。
これは市販の高価な防音室であっても防ぐことが難しいと言われており、対策は困難です。
ポイント1 吸音はどうでもいい
DIY用防音室における吸音材の優先順位は低いです。
音を外に漏らさないという点に関しては、吸音ではなく遮音が重要です。
遮音材を隙間なく敷き詰めることが肝要です。
よく防音室では吸音材が注目されることが多いです。
▼こういうスポンジ系の吸音材が一般的ですね。
最近の遮音性が高い住宅や遮音性の高い防音室で音を出すと、音が反響して音楽や収録には適しません。
吸音材が注目されるのは、そうした音の反響を抑える効果が高いからです。
DIY用の防音室であれば、防音室内に多種多様な道具を置くはずです。
たくさんのものが置かれているだけで音の反響は十分に防ぐことができますから、この手の吸音材はDIY用防音室に不要です。
工業機械の作動音を外に漏らさないための施工事例を見ると、とにかく遮音がすべてです。規模が全く違いますし、部材も全く異なりますが、DIY向け防音室製作にはこうした事例が役立ちます。
ポイント2 すべての素材を遮音性で選ぶ
防音には「吸音」と「遮音」の2種類があります。
「吸音」とは、音を減衰させることです。
「遮音」とは、音を反射させることです。
吸音材は、吸音材の内部を音が通過することで音を少しずつ減衰させます。
振動エネルギーを熱エネルギーに変換して減衰させるわけです。
そのため、音を通過させることを前提にして作られています。
基本的に厚ければ厚いほど良いです。高価な吸音材は薄くても吸音性が高いですが、厚くて安い吸音材には敵いません。
遮音材は、音を跳ね返す素材のことです。
比重が高ければ高いほど良いです。重ければ重いほど良いということです。
最良の素材はコンクリートです。
トンネルの中では声が反響しますが、これは遮音性が良いためです。
自作防音室にコンクリートは難易度が高いので、一般的には石膏ボードが採用されます。
また、薄くて重い遮音シートもよく使われます。
基本的に、運搬を前提としない据え置きの防音室であれば、石膏ボード一択です。
しかし、今回の場合は運搬を前提としており割れやすく重すぎる石膏ボードは使えません。
構造用合板(針葉樹合板やOSB)は石膏ボードと比べれば高額ですが、運搬や分解・組立のことを考えればベストな選択だと思います。
もっと詳しく見る:DIY用自作防音室#3(設計編)
ポイント3 柱を使わない
四隅に太い柱を立てて、そこに壁を取り付ければ簡単に小部屋を作ることができます。
しかし、柱があると音や振動は柱を伝って床に伝播し、階下に響きます。
賃貸DIYにおいては振動が階下に伝わることを避けなければいけません。
そのため、柱を使わない構造とします。
DIYを少しでもかじったことがあれば、箱型が強度に優れていることを知っていると思います。
今回は柱を使わず、防音室と言う箱型でもって強度を確保しようと思います。
ポイント4 防音室と床を密着させない
防音室と部屋が接しているのは「床」です。
床にそのまま防音室を置くと振動が床に伝わります。
そこで、防音室の下にゴム脚を置いたり防音ゴムを敷くことで、フローティングとまでは行きませんが床に音や振動が伝播しないように対策をします。
もっと詳しく見る:DIY用自作防音室#2(防音の勉強編)
3. 設計
設計は「もでりん」を使用しています。
基本的に骨組みを作って板でサンドイッチするシンプルな構造で床・壁・天井のすべてのパーツを製作していきます。
1つ1つの部品のサイズは910mm*600mmが基本です。
特に音や振動を遮りたい床は2x4材で骨組みを製作し、9.5mm厚の針葉樹合板でサンドイッチします。中には遮音シートとグラスウールを詰め込みます。
床以外は38mm角の荒材で骨組みを製作し、5mm厚の合板と2.5mm厚の合板および吸音パネルでサンドイッチします。中には遮音シートとグラスウールを詰め込みます。
使用予定の部材は以下の通りです。
・赤松荒材 38mm*38mm*3000mm:18本(6本束*3束)
・グラスウール(ニチアス ホームマット)55mm厚 425mm*1360mm(20枚入り):1個
・遮音シート(大建工業 遮音シート) 1.2mm厚 940mm*10000mm:2個
・吸音パネル(大建工業 クリアトーン9) 9mm厚 303mm*606mm(18枚入り):2箱
・エプトシーラー 10mm:3巻
詳しくはこちら:
4. 製作
骨組みを製作します。
このように、日の字型に骨組みを組みます。
上の写真は床のパーツですが、床・壁・天井すべて同じ構造です。
骨組みの中には遮音シートを貼り、その上にグラスウールを詰め込みます。
合板で蓋をして2重構造の出来上がり。
床・壁・天井すべてを同じように組み上げます。大変でした。
更に防音室の室内側に吸音パネルを貼り付けます。
吸音パネルは一部のみ貼り付けています。
後々、防音室内に棚などを据え付ける可能性があるため、一部は吸音パネルを貼り付けずに木をむき出しにしています。
ここまでの工程を詳しく見る:DIY用自作防音室#6(製作/前編)
続けて床にクッションフロアを貼り付けます。
最初はジョイントマットにしようかと思いました。
しかし、ジョイントマットの継ぎ目にゴミが詰まると汚いこと、またジョイントマットは耐油性に乏しく、木を保護するオイルなどをこぼすと非常に汚くなることからクッションフロアを選択しました。
なお、今回は選択肢ませんでしたが、クッションフロアにも防音性に富んだ極厚クッションフロアが存在します。
次にこれまで制作した床・壁・天井のパーツを連結するためのパーツを製作します。
手持ちのクルミ材を四角く切り出し、ボルト穴をあけたこんなパーツを作りました。
それぞれの穴は8.5mmの穴が開いており、16mmの座繰りがされています。
M8ボルトで2つのパーツを連結できるようにするわけです。
パーツを連結する前に、見栄えを良くしようと壁の外側に壁紙を貼ってみました。これが大失敗。
予想以上に難しく大人しく塗装しておけば良かったと後悔しています。
見ての通り所々浮きが出ています。
次に換気扇を取り付けます。
自作しても良かったのですが、防音室にも推奨される換気扇「ロスナイ」が安価にヤフオクで手に入ったのでロスナイを取り付けます。
取り付けは簡単で、吸気と排気用の2つの穴を開けて、取り付け金具をネジ止めするだけです。
この金具にロスナイ本体をガチャリとセットします。
エアコンの取り付け方法と同じ感じです。
ここまでの工程を詳しく見る:DIY用自作防音室#7(製作/中編)
続いて組立に入ります。
部品の連結部にはこのように鬼目ナットを埋め込みます。M8サイズです。
作っておいたパーツで連結します。
M8だけあってかなり強固です。
なお、木と木の接合部にはすべてエプトシーラーを隙間なく貼り付けます。
これにより木の僅かな歪みや凹凸によりできる隙間を塞ぎ、密閉性を高めることができます。
ここまでの工程を詳しく見る:DIY用自作防音室#8(製作/後編)
組み立て終えたら扉を取り付けます。
扉と言っても側面の壁が壁ごと開きます。
ここもシンプルに抜き差しして分解可能な丁番を使用します。
扉のロック機構は、ローラーキャッチを使用します。
こんな頼りないパーツですが、大きめのサイズを選び、複数個使うことでしっかりとロックできます。
電源を引き込みます。穴を開けた壁から、延長コードを使って引き込みます。
隙間はジョイントコークで埋めます。
照明も取り付けます。裸電球をぶら下げるだけスタイルです。
壁にはありあわせの材料と買い足した板で棚を4段作ります。これも簡単に分解できる構造です。
ここまでの工程を詳しく見る:DIY用自作防音室#9(仕上げ編)
5. 効果測定
測定結果はこちらの記事後半で詳しく紹介しています:DIY用自作防音室#8(製作/後編)
デシベル計を用意しました。
三脚に設置し、防音室内と防音室外それぞれで直線距離と高さが全く同じ位置をマーキングし、それぞれの音量を計測します。
計測する機器は以下の3点です。
- 掃除機:アイリスオーヤマ 極細計量スティッククリーナー
- ドリルドライバー:マキタ ドライバドリル DF332DSMX
- ジグソー:ボッシュ ジグソー PST650PE
防音室外で計測したありのままの音量は以下の通りです。
- 掃除機:70.4dba
- ドリルドライバー:73.8dba
- ジグソー:85.6dba
掃除機は、掃除機としてはパワーがないぶんかなり静かな部類です。あまりうるさくはありません。
ドリルドライバーはやや耳障りな高音があるものの音量自体はそれほどです。
ジグソーは明らかにうるさく、耳を抑えたくなる音量です。
次に、これらの機器を防音室内に移動します。
測定時の直線距離は同じです。
- 掃除機:40.8dba (-29.6dba)
- ドリルドライバー:41.6dba (-32.2dba)
- ジグソー:53.3dba (-32.3dba)
薄く軽量で分解しやすい防音室としてはあるまじき設計でありながら、30dba以上の音量を抑えることができています。
追記:防音室内で使う道具を更に静音化しました
静音ジグソーテーブルを製作しました:【静かなDIY】「静音ジグソーテーブル」を作ろう!
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