ブラック企業と言う言葉が定着して既に随分年月が過ぎたように思います。
実はブラック企業の定義は明確に定められておらず、政府機関からはもちろんのこと、2021年3月現在Wikipediaの情報すら錯綜している状態です。
一般的には以下のような状態にある企業をブラック企業と呼ぶものとして本記事を書き進めていきます。
- ハラスメント行為の横行
- 長時間の時間外労働の常態化
- 賃金の未払い発生
私は個人事業主として5年ほど、会社員として10年ほどの経験があり、大小さまざまな企業を見てきました。
今回は、その中でもずば抜けた異質さを持つ企業(というか経営者)に出会ったので紹介します。
お友達売ります系企業
今回僕が出会った企業は、いわゆる立ち上げて間もない零細企業でした。
事業・経営基盤も整っておらず、自転車操業にすら至っていない本当に「成りたて」の企業です。経営者が事実業の主要な稼ぎ頭であり、その手助けのために社員を数人抱えているという状態です。
経営や事業計画もなく、とりあえず今ある仕事をやって食つなぐというありがちなパターンです。
株式会社を始めとした法人は、計画性を持って法人を立ち上げるケースと、個人で仕事をしていたけどとりあえず法人にするケースがあります。今回は後者のうちでも経営スキルやセンスのない経営者が陥りがちな典型的なパターンと言えます。
さて、そんな企業の一体何が「お友達売ります系」だったのでしょうか?
ポイントは経営者の「上っ面」が良いことです。
とにかく誰とでもフレンドリーに接し、それが社員であっても社外の取引先であっても変わりません。
あまりにフレンドリーなものだから、ついついプライベートとの境界が曖昧になってしまったり、契約ごとがぼかされてしまいます。
もちろん、締めるところは締める、という責任感のある経営者であればいくらフレンドリーでも良いのですが、今回出会った企業はそうはいきません。
フレンドリーに接して仲良くなってしまうと、ついつい人は相手に情を感じてしまうものです。
今回出会った経営者はこの「情」をとことん利用し尽くし搾取する優れたセンスの持ち主でした。
「なんだ、よくある話じゃん」と思われるかもしれません。
しかし、今回出会った経営者はあまりにも度が過ぎましたし、それを意図的ではなく無意識に行う「搾取オバケ」でした。
その様子があんまりにも露骨なので、2~3回程度の打ち合わせやコミュニケーションを経れば、大抵の人が「あっ、この人ヤバイ」と察することができるほどです。無意識にやっているから、当然上手に隠ぺいすることもなく、露骨に搾取してくるのです。
更に、経営や事業企画・推進に関しての能力が致命的に欠如していました。
社会人1年目でも指摘されるような、最低限の業務遂行能力が欠如していたのです。
唯一優れているのが「行動力」でした。
社内外を巻き込み大波乱
そんな経営者の周りで何が起きたでしょう?
まずは限界まで搾取されるのが社員です。
プライベートもお構いなし、社員の家族まで利用しようとします。
一般的に社員のエンゲージメントを高めるために企業は大変な労力と投資をします。例えば報酬を上げる、福利厚生を充実させる、施設や設備を充実させる、等です。
しかし、この搾取オバケは当然そんなことすっ飛ばして「エンゲージメントMAXが当たり前、そうじゃない人はおかしい」というスタンスでした。
また、業務遂行能力全般に乏しいため、まともな指示も出せません。1度指示を出したことが、翌日には全く違ったものになっています。完成したと思ったらすべて無意味にさせられてしまいます。
そんなことを繰り返しつつ、更に仕事が遅れれば追い込みをかける訳ですから誰もが病みました。
次に搾取されるのが社外の取引先です。
通常であれば1つの業務に対して事前に見積もった金額で仕事をするのが会社対会社の一般的な付き合いのあり方ですが、これを避けようとします。
例えば「月に〇〇万円でこういうことをしてほしい」とやや漠然とした内容で一度契約をします。
そして当然のように、あれもこれもと最初に決めた月〇〇万円で限界まで搾取を始めるわけです。
当然のように、社員に対して指示が出来ないのであれば取引先に対しても適切な指示ができません。1度仕上がった完成品を無視して当然のように違うものを要求することも多々あったそうです。
もちろんまともな取引先はこんな会社と付き合いませんから、その企業もその周りの企業もまともではなかったのかもしれません。
どこかの社長と不倫関係になって仕事を取ってきたこともあったと聞き及んでいました。
当然、関与した人からするとたまったものではありません。
実際にすべての社員が結託して何度も意見をしたことがあるそうです。しかし、効果はありませんでした。何度目かの意見交換の場では、その経営者が涙を流して反省の弁を述べたことがあるそうですが、その後一切何も変わらなかったというから筋金入りです。
次に社員がどのような行動を起こしたでしょう?
そうです。
不満が溜まっているであろう社外の取引先に声をかけ始めました。
実際に、細いつながりしかなかった私のもとにもその声が届いてきたほどです。
社外の取引先と言っても、先述の通りまともな会社はこんな企業と取引しませんから、取引先は一人会社や零細企業、個人事業主が大半でした。
搾取されない同盟
そうして結成されたのが「搾取されない同盟」(勝手に命名)です。
この問題の経営者は社員がいくら意見をしても、涙を流しても変わらない本当の「搾取オバケ」でした。
それを改善させるのは不可能だろうというのが社内外の関係者の総意でした。
また、そもそもここまでの説明でわかる通り、この搾取オバケは経営者やビジネスマンとして以前に人として最低です。誰もこの搾取オバケを是正してあげようなんて言う人は現れませんでした。
経営や事業に関してセンスもないことから、その企業の将来性がないことも明白でした。
それでは取引をやめ、社員は退職すれば良い、と言いたいところですがそうは行かなかったそうです。
結局のところ、こうした低レベルな企業に集まる人々は何かしら問題を抱えているものです。そう簡単には転職先も見つかりませんし、新たな取引先の開拓も容易ではありません。
そこで、出来るだけ搾取されないように以下のルールを設けたそうです。
- モチベーションを低く、
- 挑戦を拒み、
- 報酬以上の仕事を拒み、
- 能力を隠す。
なんとも消極的な作戦ですが、会社としてはジワジワと追い込まれて行きますし、周りはギリギリまで会社から報酬を絞り出すことが出来ます。
これは自衛のための作戦ではなく、これまで搾取を続けてきた「搾取オバケ」への反撃だったのかもしれません。
搾取オバケと搾取されない同盟のその後
さて、この「搾取オバケ」と「搾取されない同盟」のその後が気になるところです。
しかし、残念ながらつながりの細かった私はこの後会社がどうなったのか、社員たちはどうしたのか、取引先はどうなったのか、全く知りません。
会社の公式ホームページは残り続けているものの更新はされていないため、会社が存続しているのかすらわかりません。
今回記事にするにあたり、当時付き合いのあった社員の一人に連絡を取ってみましたが、反応がありませんでした。
反応があれば追記をしたいと思いますが、きっと碌なものではないでしょう。
聞かない方が良かったと後悔するかもしれません。
今回の企業を見て学んだことは「経営者にとって重要なのは経営スキルより人徳」ということです。
今回出会った問題の経営者こと搾取オバケは、人を利用することしか考えず貢献されて当然と考える人間性に難を抱えた人でした。また、フレンドリーな接し方で得た「情」を切り売りする人でした。
せめて経営や事業、あるいなお金稼ぎに関して何かしら秀でた能力があれば違ったのかもしれません。
もしくは、「良い人」であったらこんな問題にはそもそもならなかったでしょう。
せめて少しでも他人を気遣い、思いやる心のある人物であったらこうはならなかったでしょう。
もしこの経営者が「良い人」であれば、たとえ経営や事業に行き詰っても、周りが協力してくれたはずです。
やっぱり人柄や人徳っていうのは大事だなぁと深く感じた出来事でした。